日々徒然

zatta!

継承される"MUGEN"の概念

宙組公演 アクション・ロマネスク 『カジノ・ロワイヤル ~我が名はボンド~』が6月11日に幕を閉じた。再び「休演」の文字を目にすることが増えつつあるこの頃、誰ひとり欠けることなく無事に完走できて本当によかった。お疲れ様でした。

本作は劇場で一度観劇済み。相変わらず友の会を始め各種先行では引っかかりもしないが、今回もe+が縁を結んでくれた。ヅカローもカジロワもe+貸切公演でしか現地へ行けていない。e+へ足を向けて寝られない。

正直にいうと、カジロワは内容的にはそこまで刺さらなかった。この作品から入っていたら、おそらく次も観ようとはなっていなかっただろう。宝塚は友人の誘いやコラボ先に興味がある際にちょこちょこ触れてはいるものの、いずれも「楽しかった」で終わっており、演者や組を追いかけるまでは至っていない。なので、二作品連続で観劇したのは今回が初めてだ。

宙組をまた見たいと思ったのは、宝塚×HiGH&LOWのコラボが期待していた以上に親和性が高く、控え目にいっても"""最高"""だったからである。ヅカローのクオリティは間違いなくテッペンを獲っていたし、こちらが思う以上に宙組の方々がハイローを気に入ってくださったこともうれしく有難かった。
さらには、二幕のショー『Capricciosa!!』が刺さりに刺さりまくった。抜けない棘のように今も心に残っている。ヅカローが素晴らしかったことは言うまでもないが、カプリチョーザが本当に、本当に楽しかった。ハイロー目当てで来たLDH famを根こそぎ絡めとるという気概がビシビシと感じられて(※個人の見解)初めて浴びた時はなんておそろしいものを……と震えた。完全にLDHのおたくが好きなやつだった。初めて体感した帰り道、ヅカローを反芻しながらハイグラを聞く予定が終わってみれば狂おしいほどに心がカプリチョーザを求めており、聞きたいのに聞けないジレンマでどうにかなりそうになりながら仕方なく代替案としてハイグラを聞くという予想だにしない展開になった。カプリチョーザのCDは未だにヘビロテしている。元気がでる。

そういうわけで、あまりにヅカロー×カプリチョーザの組み合わせが性に合いすぎた為、カジロワはちょっとばかり物足りない感覚だった。印象に残ったのは、冒頭の男役によるスーツ群舞(最高!!!)、謎のイルカの歌、キャベツ畑になる客席……
とはいえ、前回で顔と名前を覚えた演者さんも多く「この方はヅカローの〇〇!」といった楽しみ方ができたのはよかった。当たり前だが、全然雰囲気もお芝居も違うんだなという気づきがあり(当たり前体操)カジロワの世界で生きる方々を見守るのは愛おしくも楽しい時間だった。二幕の台詞や歌詞からこれまでの文脈を(勝手に)感じ取っては、体験していないにもかかわらず皆さんがこれまで紡いできた歴史へ思いを馳せて涙を流した。おたくはそういうのが得意。

前振りはこのぐらいにして、ライブビューイングの思い出を綴りたい。千秋楽「真風涼帆ラストデイ」を見届けられて、本当によかった。情弱なおたく、来場者特典としてメモリアルチケットが配られることを知らず入口で早くも感極まりそうになる。真風さん……! トップスターが退団する時は本当に色々と豪華なんだなぁ。(素人の感想)

劇場で一度観ていたおかげで、CIAのトップエージェントが去る際に起きた拍手で「あぁ……!」と気づく。すっしーさんが去る際の「お疲れさまでしたー!!」(バカデカボイス)(大好き)で号泣するおたく。ヅカローでCV.立木文彦を現実世界へ具現化してくださったことに(※CV.立木文彦は現実)感銘を受けたのと、卒業生の経歴を読み上げるお姿の凛々しさとお声の温かみが印象的で、一作品しか見ていないのに大好きになったすっしーさんのご卒業はにわかにとっても寂しいものだった。すっしーさん……うっ。

この日ならではといえば、桜木みなとさんのアドリブが八か国語の「こんにちは」で、毛色の違うアドリブだなーと思っていたら今回本編が世界へ配信されていたことを知り、それでか……!と感動した。節々で感じることだが、宝塚はおもてなしの精神とでもいうのだろうか。心配りが行き届いていてすごいなと感心させられることが多い。大事なことだ。世界を視野に入れるってそういうことだよな……
余談だが、ヅカローで一番気になったのは桜木みなとさん(以下、僭越ながらずんちゃんさんと呼ばせていただく)(LDH構文)だった。ハイローで一番好きなキャラクターは村山良樹だが、目を引いたのはスモーキーだった。(無論、鷹翔千空さん演じる村山も最高だった。めちゃくちゃ村山さんだった)てっきりクールな方だと思っていたら、ファンの方から「でっかいひまわり」と呼ばれている(?)ことを知り、確かにカプリチョーザの笑顔はそんな感じするわと思っていたところにカジロワのミシェルを見てなるほどと気づきを得た。大変愛らしいキャラクター。スモーキーとは似ても似つかない。余談おわり。

ヅカローでも卒業セレモニー(?)で泣いていた涙腺激弱おたく、知っている方が卒業する今回は大泣きすると想像していたが、現実は予想を遥かに超えてくる。サヨナラショー、本当に感無量で(クソにわかのくせに)感動的で素晴らしく美しい世界だった。皆さんが大切に、大切に作り上げたことがひしひしと伝わってきた。愛しかなかった。ラブドリームハピネスを謳う世界へ一応は片足を突っ込んでいる人間なので、宙組の皆さんのでっかい愛に胸を打たれて、ずっと泣いていた。

サヨナラショーは真風さんの宝塚人生を振り返るものだと認識しているが(違っていたらすみません)、十年以上に及ぶ歴史を凝縮するには到底時間が足りない中で『HIGHER GROUND』を選んでくださったことが本当にうれしく、再びSWORDの面々と出会えた奇跡にいたく感激した。山王もラスカルズも鬼邪高もルードも達磨も勢ぞろい。完全にヅカローの世界ができあがっていた。都合上、衣装やメイクの再現はできずに曲だけ披露していたものもあったのに(だよね??)もう会えないと思っていた彼らに再び出会えたこと、その機会をつくってくださった宙組さんの仁義というか誠意というか……なんと表現すればいいのだろう。陳腐だが、やはりBIG LOVEとしか言えない。ありがとうございます。真風さんのくちびるの色が薄いなーと思っていたらコブラになった瞬間、頭の中で「あっ!!!」と大声が弾けた。

この時点で早くも心象風景の自分は大の字になっているが、『FLY WITH ME』が来た瞬間に感謝で飛び起きた。いいんですか……!? 実は本作品は未視聴なのだが(先約があり配信を見られなかった)、曲調とコスチュームですぐにわかった。いや、あの横一列かっこよすぎん!?? 曲が始まる前から心臓鷲掴みだった。あんなの好きに決まってるじゃん。バチクソかっこいい。『FLY WITH ME』ちゃんと見ます。

くり返しになるが、限られた時間の中でLDHとのコラボを複数取り入れてくださったの、本当に感謝しかない。ここまでしてくれてありがとう以外の語彙が消える。ハイロー風に言うと「ここまでされたんだぞ!」だ。ありがとうございます、ありがとうございます……! 宝塚さんにとっても、宝塚を愛する方々にとってもLDHとのコラボが良い思い出として刻まれていたらうれしい。

大好きな『Capricciosa!!』からも二曲(確か)お披露目されて、本当にうれしかった。ヅカローのクオリティがテッペンを獲っていることは先ほど述べた通りだが、キャラクターの再現度の高さと宝塚文脈への組みこみ方があまりに素晴らしかったこと以外にもヅカローでめちゃくちゃ好きなところがある。カナだ。潤花さん演じるカナが本っっっ当に魅力的で、可憐で愛らしくて大好きだ。圧倒的な光におたくは弱い。

自分はオリジナルキャラクターというものをあまり好きになれないタイプの人間だ。同じぐらい、守られるばかりで何もできないヒロインも好きではない。

カナはオリジナルキャラクターで、コブラと肩を並べて戦うようなヒロインではない。重い病気を患い、余命幾ばくもない女性。設定だけ見れば、苦手×苦手=だいぶ苦手な類のヒロインだ。
それなのに、カナのことは大好きになった。いじらしくも切ないコブラとの恋愛がかわいらしく、二人のことをいつまでも見守りたいと思えた。すべてを知った後は、登場するだけで涙するほどカナのことが好きだった。

どうして、そんなにもカナのことを好きになれたのか。答えはひとつだ。演じたのが潤花さんだから。『Capricciosa!!』で生命力に満ち溢れ、生き生きと歌い踊る姿を目の当たりにして「あぁ、潤花さんがつくりあげたカナだからこんなにも好きになれたんだな」と感じた。自分、強い女が大好きなので。
カナは喧嘩はできないが、弱くはなかった。ロッキーが彼女を「強い」と評したことがヅカロー本編ではいまいちピンとこなかったのだが、カプリチョーザを見て腑に落ちた。確かに強い。
自分がカナを好きな理由に気づいたナンバーを歌い、踊る潤花さんを再び見ることができて本当にうれしかった。あの曲をチョイスしてくれてありがとう。

真風さんの燕尾服姿には驚かされた。宝塚大劇場の千秋楽は都合がつかず見られなかったが、確か袴姿でいらしたのでは……? 宝塚初心者、袴以外の選択肢があることを初めて知る。どうして燕尾服なんだろう。不思議に思いながら見ていると、真風さんがこう挨拶された。

「8代目宙組トップスター真風涼帆、本日をもって任務を完了いたします」

この人は最後の最後までトップスターで居続けてくれたんだと感じた。タカラジェンヌとしてではなく、あくまで男役トップスターとして卒業するのだと。(にわかの戯言なので違っていても怒らないでほしい)ボンドの台詞に引っ掛けた粋な挨拶。きらきらと輝く、どこまでも格好いいトップスター真風涼帆。夢を見せてくれる人が好きだ。その覚悟とプロ意識の高さに頭が下がる。トップスターの皆さんは全員そうなのかもしれないが、自分は真風さんが最初なので本当にずっと感動していた。この人は本当に宝塚という世界を愛しているのだと思った。

そんな完璧なトップスターも、最後にゆりかさんの顔を見せた。それもまた美しく、尊いものだった。
ヅカロー出の新規である自分は、芹香斗亜さん(以下、僭越ながらキキちゃんさんと呼ばせていただく)(LDH略)があんなにも大泣きするとは予想もしておらず、かなり面食らった。WOWOWの番組で役ではないキキちゃんさんを拝見した際、おっとりとしてやわらかく隣でにこにこ笑っていてくれる方だという印象を持った。同時に、板の上に立つ姿は冷静でしっかり者なイメージがあった。なので、あんな風に泣きじゃくる姿を見て動揺した。それまでもずっと泣いてはいたものの、思いきりもらい泣きしてしまいマスクの下がいよいよおしまいになった。想像の中のキキちゃんさんは「宙組を受け継ぎ、背負っていきます」的な挨拶を凛とした姿でしていたので、ゆりかさんに言葉をかけられて「無理、無理、無理……!」と顔を覆うなんて本当に驚きで、自分は二人の歴史をこれっぽっちも知らないけれど、あの光景だけで察するに余りあるものがあった。ゆりかさんも泣いていたが、卒業する彼女よりずっと泣いているキキちゃんさんはやっぱり後輩なんだ、"真風涼帆"という存在は言葉では言い表せられないほど大きいのだと感じた。キキちゃんさん、貴方が背負う(この表現が失礼にあたったらすみません)宙組も見てみたいと思いました。

ここまででだいぶ満腹、大往生だが、さらにぶっこんでくる宙組の皆さん。最後の最後「ゆりかさん!」と呼びかけた後、「俺たちはMUGENだ!!」の大合唱が起きた時、とうに用をなしていない涙腺が完全に壊れた。うぁあああああああああああああ ありがとうございます、ありがとうございます……!! そう、 永遠じゃねえ MUGENなんだよ……

あくまでも真風さんに対しての言葉であり、我々観客には何ら関係のないものだがそれでも言わせてほしい。宙組の皆さん、ハイローを愛してくださり本当に、本当にありがとうございます。ヅカローの時も退団者の方がMUGENを使ってくださいましたが、完璧な文脈で宝塚へMUGENの概念が受け継がれていることに感動を禁じ得ない。LDHのおたくは継承に弱い。本当にありがとうございました。

個人的に、コブラとカナが成立したのはまかかののお二人だからだと感じてはいるものの、いつかまた宙組さんでヅカローを再演してもらえたらうれしい。再演じゃなくとも、ハイローの精神とMUGENの概念を正しく理解して自分たちの文脈へ加えてくださった宙組さんなら違ったかたち(たとえば今度は雨宮兄弟とか)でも受け入れられると思う。よかったら、今後もLDHと仲良くしてください。景気がよくて面白いエンタメが見たい。よろしくお願いします。

ご自身の卒業なのに、常に周りへの心配りを忘れない真風さんが本当に素敵だった。すっしーさんのお誕生日イエーイ!できて幸せだったし、宙三本締めを声を出してできたのも幸せだったし、音頭をすっしーさんへ任せてくださったのもうれしかった。潤花さんと二人で緞帳の前に出てきた時の漫才のようなやりとりも微笑ましく、良さが詰まりに詰まっていた。潤花さん、挨拶の時も合いの手のように「ゆりかさん」を挟んできて最高だったな……噂に聞いていた通りだった。彼女が真風さんにかけた「何があっても味方です」という心強い言葉は、深く響いた。人生にここまで力強く己を肯定してくれる人がいるなんて本当に幸せだと思うし、はたしてそういう存在を得た人がこの世界にどれだけいるかというと、決して多くはないだろう。こうも強く揺らがない「一生味方宣言」をしておきながら、これからも応援させていただいていいですか?(うろ覚え)と上目遣いに尋ねるいじらしさがかわいすぎて、潤花さん本っ当に大好きだー!!の気持ちでいっぱいになった。

最後に。真風さんが潤花さんに「台詞や歌詞にもあったけど」と語った「短くても濃い」は、自分にも当てはまるような気がしている。ヅカローからだが、出会えて本当によかった。素敵な時間をありがとうございます。卒業を見届けることができて幸せでした。これから皆さんが歩む道に幸多からんことを。


※不敬にもすっしーさんだけ最初から馴れ馴れしくすっしーさんとお呼びしていることを謹んでお詫び申し上げます。すっしーさん大好き!