日々徒然

zatta!

TRUMP series 15th ANNIVERSARY 『LILIUM -リリウム 新約少女純潔歌劇-』

質の高いミュージカルだった。オーディションをしただけあって、全員歌が上手い。

新約リリウム、初演を見ている人は二回観るのをおすすめしたい。というのも、ビジュアル・役作りを含め、キャラクターの造形について初見はどうしても「初演とここが違う」という見方をしがちだからだ。比べようと思って見ていなくとも、自然と記憶とイメージが蘇ってくる。おそらく、初演を見ていれば見ているほどそうなるのではないか。初演のビジュアルや演技がちらついて、フラットに見ることが自分はかなり難しかった。無意識に「初演はこうだったな」が出てきてしまう。そういうのがいちいち意識に挟まるのが厄介で、最後まで完全に入りこむことはできなかった。どこか遠くから冷めた目で見ている部分があるというか……後方腕組み彼氏面的な?(多分違う)

すべてを経験し、知った上で臨んだ二回目は純粋に楽しむことができた。新約のキャラクターたちとまっすぐに向き合うことができたし、板の上にあるものを純度100%で受け取れた気がする。なので、初演を見ている人は(初演に引っ張られそうな人は)二回は観ることをおすすめする。

そして、二回観た上でもヒリヒリ感というか、未成熟な子どもたちがその時にしか出せないものを絞り出し放出し尽くして、何もかもを捧げ、削り、残ったひとかけらを浴びている感覚は初演ならではだと思った。初演にしか出せないエネルギーがあった。
勿論、新約は新約のエネルギーを放っている。技巧だけを見れば、よりミュージカルとして完成度が高いのは新約だろう。(そもそも初演と新約では表現の方向性が違う)

けれども、リリウムの世界観を剥きだしで表現できていたのは、初演のように思えた。新約はまとまった綺麗な和音で、初演は不協和音とでもいうのか(技術の話ではなく)。成熟した高クオリティのミュージカルである新約の素晴らしさに感銘を受けるのと同時に、初演のどこか不安定な青さ、なにかが欠けている感、そういったものが恋しくなった。新約を観ると初演が見たくなる。なるほど、これが永久機関というやつか……

新約リリウム、観て良かったと思える素晴らしい作品だった。発表当時、生で観劇できる機会が与えられたことに心が震えた。絶対にチケットを取って観に行くと決めた。
チケットは有料の最速先行で取った。キャスト発表前。完全に演目だけで判断した。その行為は、「信頼」と言い換えることができる。

そうして、『二輪咲き』が後出しされた。

二輪咲き。ファンなら喉から手が出るほど見たい、プレミアと化した幻の作品である。それを、アフターイベントの位置づけでチケットが最も売れていない日にぶちこんできた。販促でアフターイベントを追加するのはよくあることで、それ自体は何とも思わない。しかしながら、追加されるのが「イベント」ではなく「作品」であれば話は別だ。同じチケットで、一作品観られる客と二作品観られる客が生まれるわけである。
それでも『二輪咲き』でなければ、まだ許容できたかもしれない。演劇業界が色々と苦労や工夫をしているのも、ある程度わかっているつもりだ。

この機に配信、円盤化が叶い、劇場へ足を運べないファンも含めて多くの人に見る機会が与えられる。その為の、こういった形でのお披露目なのかもしれないが、わかっているのは「最初から決まっていた」ことだ。だって、イベントじゃない。作品なのだ。当然、稽古をしている。

新約リリウムは素晴らしい作品だ。
しかしながら、今後TRUMPシリーズのチケットを脚本家の有料チャンネル最速先行で取ることはないだろう。二輪咲きの後出しをチャラにできるほど熱狂的な信者にはなれなかった。

長い目で見て、今回のやり方はよかったのだろうか。
これからも、こういうことが起きるのだろうか。
観客は常に作品(演目)がおまけとして追加される可能性を考えてチケ取りをしなければならないのだろうか。

答えが出るのは先だろうが、少なくとも一人顧客を失った。

二輪咲きが入ったのは「ここは集客が厳しいだろう」と素人目でもわかる日程で、チケットの売れ行きが渋いことは企画した時点で予想できていたはずである。故に、見通しが甘かったというよりは初めから二輪咲きを織り込み済みで企画していたのだと思うが、だとしたら最初に発表しておけばよかったではないか。そうしなかった時点で、観客に対して誠実ではないと感じた。
本当に土壇場で決まった場合も「運営の見通しが甘い」で終わりである。そのツケを観客へ負わせようとしないでほしい。『はじめての繭期』を販促へ効果的なタイミングで行うなど、工夫できたことはあると思う。新約リリウム自体は素晴らしかっただけに、物販の混乱など運営の拙さが残念だ。

本作に限った話ではないが、集客を上げたければ観客の目線に立つことも大事だと思う。別に「お客様扱い」をしてほしいわけではない。必要な情報を適切なタイミングで公開するなど、ちいさなことなのだ、求めているのは。だが、この溝が、ズレが埋まる日はなかなかこない。